王弟・成蟜と主人公・信が唯一の対面を果たした時から六年
今話を含めた屯留（とんりゅう）のエピソード。実はそこで描かれる王弟・成蟜（せいきょう）と主人公・信は、かつて一度だけしか会った事がありません。物語の始まり「成蟜の反乱」以来です。当時、少年と呼ぶのも若いかな？というような二人がここで再び接近する事により、当時から二人がどれだけ成長しているかが、今話では描かれます。物語の時間の流れでは、あの時から実に六年の月日が経っています。
ただ血筋の良さを鼻にかけ、母親が民間人だという兄・嬴政（えいせい）を嫌う。当時の成蟜はそんな存在でした。兄から玉座を奪ったら権力者である呂不韋（りょふい）を倒し、その後の事は手を組んだ文官に任せる。自分が王であるのならば国の運営、民の将来の事などどうでも良い。それが当時の成蟜です。
今回のお話はまさに、成蟜がどういう成長を遂げたのかを知る為の回だったと言っても過言ではありません。
成蟜と瑠衣を引き立てる小悪党たち
今回のお話は一年以上を掛け、隣国の趙（ちょう）を巻き込んで行われた大規模な反乱作戦なのですが、黒幕であり仕掛け人でもある呂不韋（りょふい）にあまり真剣味が感じられません。彼にとってみれば数ある策のうちの一つのような印象です。
そのせいか、反乱計画の当事者は小悪党という言葉がぴったりくるような下衆な人物が多いです。それはひょっとすると成蟜と瑠衣という今回の物語の中心二人をより一層綺麗に見せる為の演出なのでは？と、勘ぐってしまう程。
王弟・成蟜の軍を率いてきた二人の将軍のうちの一人であり、裏切り者の龍羽（りゅうう）将軍は最初から秦を裏切り、趙へ亡命する算段。なのに討伐軍の大将首を持っていかないと亡命後の待遇が悪くなると言い張り、作戦を無視して強引に屯留に残ってしまいます。
また、実行犯グループの主犯とも言える屯留の城主代行・捕鶮（ほかく）は成蟜が思わず「下衆が」と言い捨てる程、嫌らしい野心と欲望をここにきて隠しません。
では、今の成蟜にはどんな志があるのでしょう？
兄・嬴政への共感と憧れ。自ら剣を振るう成蟜
六年の時を経て変わった成蟜。では、その変化に最も影響を与えた人物は誰かと言えば、間違いなく兄であり国王である嬴政（えいせい）です。500年以上続く戦国時代を終わらせる為、未だかつて誰も成し遂げた事のない中華統一を目指す歴史上、最も野心的な王。
それは誰の為かと考えれば、中華の為。国の為。そこで暮らす民の為。何度も考え見付けたその道について、嬴政は迷う事なくそう答える事ができます。だからこそ、合従軍との戦いで追い込まれた時、嬴政は自身の保身や延命に走るのではなく、戦って国を救う為の選択をしたのです。そして、その功績によって「英雄王」と呼ばれるようになりました。
今回の成蟜出陣には、その影響が大きいです。王の威光が民や兵をどれだけ奮い立たせる事が出来るのか。自らそれを実感したい。同じ事をしてみたい。それは臆病を隠すように全てを他人任せにして自分は安全なところから見物していたような成蟜からは考えられない発想です。そして、追い詰められた今話では巧みな駆け引きをし、兵を懐柔し、自ら剣を持って戦うのです。何だか、胸が熱くなりますね。
自身の使命と愛する者の為
恐らく成蟜が自らに課した使命は兄・嬴政を支える事。もしも兄に何かあった時、その志を受け継ぎ中華統一の覇道を引き継ぐ事。その為には共通の敵である権力者・呂不韋を倒さなければならないし、血筋から皇族、貴族との繋がりが薄い嬴政を助けて政治に必要な得票を稼ぐ事が一番彼の役に立ち、自分に向いている仕事だと思っていた節が見受けられます。
その一方、成蟜は利益や損失を語りながら自らに不利益になるような行動をします。供の寿白（じゅはく）が怪我を負った時に見捨てず、逆に手傷を負ってしまう場面。自分一人で脱出した方が確実に味方と合流して保護されたのに、妻の瑠衣を僅かな手勢で救出に行きます。
こういう言い方をすると陳腐な感じになってしまうのですが、それはやっぱり愛からくる行動だと思います。六年前の反乱の時、はっきり成蟜に反対した二人。そしてその後に失墜した成蟜を唯一見捨てなかった二人。教育係や妻という立場を超えて、成蟜にとってこの上なく大事で替えのきかない存在。だからこそ危険を承知で彼は救出へ動くのです。
今回は本当、成蟜の成長を余すことなく描いたお話でした。次回、そんな成蟜の命運がどうなるのか？信は間に合うのか？早く続きが観たいですね。
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